続々いぶき                 渡辺敏夫著    発行 こまどり幼稚園

 

 誰かに「愛書は?」と聞かれたら、間違いなく一番に上げる本が、この「いぶき」です。又、先生と言う言葉を聞いただけで、なぜか思い出すのがこの本の著者渡辺敏夫先生なのです。

 まず、先生の事から始めましょうか、

渡辺敏夫先生は、私と同じ大森町川西地区で生をうけ、定年まで教員生活を送られました、地域の小学校、中学校の校長を歴任されて退職し、その後社会教育に情熱を燃やされました。書道教室や、先人の顕彰事業など、ご功績には枚挙にいとまがありません。

先生は大正6年のお生まれですから今年で87歳になられます。ご高齢といえば失礼なほど、まだお若く、意気軒昂に活躍されています。三年ほど前には、「今時の小川は三面舗装されて、自然が失われている」事を憂い、「古里の小川を蘇らせる会」を立ち上げました。その運動の結果、一週間ほど前ついにモデル的な小川の完成をみたところです。 この小川に蘇ってくる植物や虫類を見つけて喜ぶ先生の顔が目に浮かびますが、これを契機に、只々水の流れだけを計算するのでなく、多少水は流れが澱んでも、そこに育つ動植物とも共生する、そんな 住民の意識の変革を期待する、息の長い運動のスタートでしょう。

 今年も駒ヶ岳登山をこなし、先述の運動に情熱を燃やす、まさに少年の心を失わない87歳なのです。

 先生が教員を退職された後、叔母であったという先代理事長の後を引き継ぎ、秋田市にある、こまどり幼稚園の理事長先生に就任されましたが、この園における先生のご活躍は、「いぶき」のなかで一部が紹介されています。「科学する心を育てる」の研究実践でソニー教育財団から 2度にわたる全国最優秀賞受賞など、幼稚園教育にも、理想を求める先生の姿勢が眩しく輝いているのです。

 さて、本題の今日の一冊ですが、この「いぶき」は、続々とあるように3冊目の出版です、こまどり幼稚園での折々のエッセイを30編ほど収めています。

今回はその中に収録されている「母の一言」と言うお話を紹介します。

先生の文章は、読んでいる内に、「私も・・・」とか「そうだったのか?」、「んだんだ」みたいに、話の中に入っている自分を感じます。それが作品の主題からずれていても、一言の言葉だったり、文中のエピソードだったりしますが、勝手に自分の話をくっつけて、読む楽しさがあるのです。それは、平易な言葉、文章で綴られていますが、文章の説得力、表現力のなせる技なのでしょうか、行間で語られる先生の人生観、教育観なのでしょうか。

 「母の一言」の 書き出しの部分に、〜小川の岸の野バラが白い小さい花を咲かせる、それは待ちに待った水あぶり(水浴びのこと)解禁の合図なのである〜という一文があります。続いて〜これは昔から村の親たちから伝えられてきた一つの決まりみたいなもので、野バラが咲く季節になれば、子供達に水浴びさせても良い気温や水温になるという、長年の経験によって生み出された知恵であり〜とあります。

本文は、その合図とともに子供達は毎日水浴びに興じ、夏休みの終わるころには、全身褐色の肌に変身している、と続きますが、さすがに野バラの開花と、水浴びが・・・、とは全く知らない話で、そうなのかと、あたかもその時代にさかのぼって、当時の風景を思い出しながら楽しむ自分がいます。

本題の「母の一言」とは、先生の少年の頃、〜祖父から外仕事を手伝うように言われたとき、雨が降るからと言って出渋っていると、あの温和しい母が「おまえは紙袋ではない、紙なら濡れると破れるが、おまえはそんな事はない、後で乾かせばそれで済む」と優しく、厳しく戒められた事を、ありがたく今でも事ある毎に思い出す〜。と言う話です。

どうでしょうか、何とも納得の話です。又難しい話でもないですね。なるほどだけれども、なかなか言えないです。その状況は、雨に濡らす我が子と、祖父の存在など、家族の絆、お互いの立場を瞬時に考えた結果の一言だったと思うのです。

それにしても90歳近くなろうという我が息子に、それでも思い出させる言葉が残せるでしょうか、

何とも、心にはホットしたものを感じ、自分の子育てには汗をかく思いもさせられました。

まさに、先生の文意にはまった感じです。

私が評するには僭越ですが、心温まる文章で書きつづられた、名書だと思います。

興味ある方は、書店には無いと思いますが、著者・発行元に問い合わせてみて下さい。

  

※この本を分けて貰える分があるかどうかお尋ねしたところ、まだ少しは有るそうです、 ご希望の方は以下にお問い合わせ下さい。

 

著者 渡辺敏夫 

  013-0501秋田県横手市大森町板井田字中山崎1

 

   発行元    こまどり幼稚園

        010-0044    秋田市横森5丁目2−2

 

                                                    

たかやす進一